1. 4月9日の発表でまず押さえるべき事実
【公式情報】東京都デジタルサービス局とGovTech東京は2026年4月9日、 生成AIプラットフォーム「A1(えいいち)」の本格運用開始を発表した。 対象は都職員約6万人で、 2025年9月から試行運用を経て全庁展開に至った。
【公式情報】名称の「A1」は渋沢栄一に由来する。 渋沢が近代産業の基盤を築いたように、 AIアプリを生み出す基盤となり、 業務の生産性向上と都民サービスの変革を実現する意図が込められている。
| 項目 | 内容 | 実務での意味 |
|---|---|---|
| 発表日 | 2026年4月9日 | 試行7ヶ月を経て全庁展開へ移行 |
| 対象職員 | 約6万人 | 日本最大規模の行政AI導入事例 |
| 開発方式 | ノーコードでAIアプリを作成 | プログラミング不要で現場主導の開発が可能 |
| 展開範囲 | デジタル公共財として他自治体にも共有 | 一度作ったアプリが複数組織で再利用される |
【公式情報】GovTech東京は同プラットフォームを オープンソースソフトウェアを活用して内製で構築しており、 都内自治体にもテスト環境を提供している。 昨年度は20自治体が参加し100個のアプリが誕生、 2025年度は37団体まで参加が拡大した。
2. A1(えいいち)が解決する3つの行政課題
A1は単なるチャットボットではなく、 行政特有の課題を解決するための共通基盤として設計されている。 公式発表で確認できる具体的な活用事例から、 どのような課題を解決しようとしているかを整理する。
課題1:繰り返し発生する文書作成業務
【公式情報】庁内では契約に係る仕様書案の作成を支援するアプリが 共通利用されている。 仕様書は部門ごとに似た書式で作成されるため、 テンプレートとAIを組み合わせることで、 下書き工程の時間を短縮できる。
課題2:AI導入そのものの判断が難しい
【公式情報】AI導入・活用時に対応すべきポイントをサポートするアプリも 整備されている。 これは「AIを使いたいが、何から始めればよいかわからない」という 行政現場の声に応えるもので、 導入判断そのものをAIが補助する構造だ。
課題3:過去情報の検索と活用
【公式情報】都議会議事録をもとに答弁検討を支援するアプリでは、 過去の質疑応答を生成AIが分析し、関連する答弁を検索・提示する。 膨大な議事録を人手で探す工程を省き、 政策立案の質とスピードを同時に改善する狙いがある。
- 外注でシステム開発
- 特定部署だけが利用
- 他部署・他自治体で再利用できない
- ノーコードで内製開発
- 6万人が共通利用
- 他自治体にもデジタル公共財として共有
図1:A1が変えた行政AI活用のモデル
3. 中小企業が学べるAI基盤設計の考え方
A1の設計には、中小企業のAI導入でも応用できる考え方が含まれている。 とくに以下の3点は、規模に関係なく有効だ。
考え方1:「全員が使える」を前提に設計する
A1は6万人の職員全員を対象としている。 つまり、ITリテラシーの高い人だけが使う前提ではない。 中小企業でも、特定の担当者だけが使えるAIツールは 属人化し、退職や異動で使われなくなるリスクがある。 最初から「全員が触れる」設計にすることで、 AI活用が組織に定着しやすくなる。
考え方2:作ったものを共有できる仕組みにする
A1では開発したAIアプリを組織内で共有できる。 ある部門が作った仕様書作成アプリを、別の部門でも利用できる仕組みだ。 中小企業でも、営業がChatGPTで使っている有効なプロンプトを 全社で共有できる仕組みがあるかどうかで、 AI活用の広がり方は大きく変わる。
考え方3:課題起点でAIアプリを作る
A1で共通利用されている3つのアプリはいずれも、 現場の具体的な困りごとから出発している。 「AIで何ができるか」ではなく、 「この業務の何が面倒か」から考える。 この発想は、AI導入が失敗する本当の理由で 解説した「業務課題ベース」の考え方と同じだ。
| A1の設計原則 | 中小企業での応用 | 具体的なアクション |
|---|---|---|
| 全員が使える | ITに強い人だけに頼らない | ノーコードツールやChatGPTから始める |
| 作ったら共有 | 成功パターンを横展開する | プロンプト集やワークフローを社内共有する |
| 課題起点で開発 | 「何ができるか」より「何が面倒か」 | 業務フローを棚卸しして自動化候補を洗い出す |
4. ノーコード×共有モデルを自社に応用する方法
A1のノーコード×共有というアプローチは、 中小企業でもすぐに試せるステップに分解できる。
- Step 01 繰り返し業務を1つ選ぶ
- Step 02 ノーコードツールで仕組みを作る
- Step 03 他部門に共有して横展開する
図2:中小企業版「A1アプローチ」の3ステップ
Step 1:繰り返し業務を1つ選ぶ
東京都が仕様書作成を選んだように、 毎週・毎月繰り返す定型業務を1つ選ぶ。 見積書の下書き、議事録の要約、問い合わせ回答の雛形作成など、 「毎回似たことをしている」業務が候補になる。
Step 2:ノーコードツールで仕組みを作る
ChatGPTのカスタムGPT、 n8nのワークフロー、 Difyなどのノーコードツールで、 プロンプトとテンプレートを組み合わせた仕組みを作る。 A1がOSSで内製したように、 最初から大規模なシステムを開発する必要はない。
Step 3:他部門に共有して横展開する
1つの部門で効果が出たら、 プロンプトやワークフローを他の部門でも使えるようにする。 A1がデジタル公共財として他自治体にも展開するように、 一度作った仕組みを使い回すことで、 AI活用のコストパフォーマンスは飛躍的に高まる。
【MIRAINA視点】 生成AI活用支援では、 こうした業務棚卸しからノーコード実装、 社内展開までを一貫してサポートしている。 AI研修と組み合わせることで、 「使える人だけが使う」状態から、 全社員が活用できる体制への移行を後押しする。
5. 導入前に整理すべき境界例
A1の成功事例を見てすぐに全社導入を決める前に、 自社の状況を整理すべきケースがある。
| 自社の状態 | 主なリスク | 先にやること |
|---|---|---|
| 業務フローが可視化されていない | 自動化対象が特定できず効果が出ない | 主要業務を書き出して所要時間を計測する |
| 情報管理ルールが未整備 | AIに機密情報を入力する事故が起きる | 入力禁止項目とデータ区分を先に決める |
| 経営層がAIを触っていない | 現場の提案が承認されず導入が進まない | 経営者自身が週1回ChatGPTを使う習慣から始める |
東京都は2023年8月にまず全職員へのAI利用環境整備から始め、 ガイドライン策定、600個のアイデア収集、 103個の有望事例抽出を経て、 2025年9月の試行運用へと段階的に進めた。 約2年をかけて全庁展開に到達したという事実は、 「すぐに全社導入」ではなく、 段階を踏む方が定着しやすいことを示している。
6. まとめ:6万人が使えるAIは「設計」で決まる
東京都のA1(えいいち)が示したのは、 AIの性能ではなく「誰でも使える設計」が 大規模導入を成功させる鍵だということだ。 ノーコードで作り、組織内で共有し、課題から出発する。 この3つの原則は、6万人の自治体でも、 10人の中小企業でも同じように機能する。
中小企業が今やるべきことは、 繰り返し業務を1つ選び、ノーコードで仕組みを作り、 それを社内で共有することだ。 A1が証明したように、 全員が使えるAI基盤は、技術力ではなく設計力で決まる。