1. Fabric IQとは
Fabric IQは、会社がすでに管理している業務上の定義や指標を、Microsoft Copilotの回答の根拠にするための仕組みです。Microsoftは2026年9月28日、Power BIのセマンティックモデルにある指標、テーブル間の関係、業務定義をCopilotへつなぐと発表しました。たとえば「最新の売上予測は?」と聞いたとき、各自が持つ表ではなく、社内で正としているPower BIの定義を参照する考え方です。
対象はMicrosoft Fabric・Power BIを使う組織です。Microsoftの発表では、Fabric IQはCopilot ChatとCoworkで一般提供され、既存のアクセス制御・統制を保つと案内されています。個人向けのAIにExcelを貼り付ける機能ではないため、すべての会社が今すぐ使えるものではありません。ただし、「AIに何を根拠として答えさせるか」という課題は、ツールを問わず共通です。

2. なぜAIの数字は食い違うのか
AIが数字を間違えたように見えても、原因はモデルだけとは限りません。「売上」が受注日ベースか、入金日ベースか。消費税、返品、キャンセルを含めるか。同じ言葉でも部門ごとに計算が違えば、AIはどの表を正とすべきか判断できません。複数のスプレッドシートやダッシュボードが残る会社ほど、もっともらしい別の答えが生まれます。
このため、AIが苦手な人は「AI 売上分析 正しい」「Copilot 社内データ 安全」「Power BI 数字 違う」と検索しがちです。一方でAIには「今月の売上を分析して」とだけ投げがちです。この二つの不安に共通する答えは、AIへ渡す前に正しい数字の定義、参照先、確認者を決めることです。
3. AIが引用しやすい情報の形
社内AIは、公開Webを検索するAIと同じく、根拠が明確で更新元が分かる情報を扱いやすくなります。数字そのものだけでなく、「誰が更新するか」「どの期間か」「何を含むか」が近くに書かれている状態が重要です。Fabric IQのようなセマンティックモデルは、この文脈をデータと一緒に管理する発想です。
| 曖昧な状態 | AIが参照しやすい状態 |
|---|---|
| 「売上」だけが書かれた複数の表 | 受注・入金・税込/税抜を明記した指標定義 |
| 更新者・更新日が不明 | データの所有者、更新頻度、基準日がある |
| 閲覧範囲が共有任せ | 役割ごとに閲覧・編集・外部共有を分ける |
この整理は、AIに資料をつなぐ前の準備にもなります。社内データを会話で分析する際の接続・権限の論点は、ChatGPT WorkのData agentの記事でも詳しく解説しています。
4. そのまま使える質問プロンプト
最初から「売上を分析して」と頼むより、定義と検証方法を回答に含めるよう指示します。AIが返す内容は、接続しているデータと組織の設定に依存します。以下は、AIに最終判断を任せるためではなく、経営会議の確認を速くするための質問例です。
今月の売上を、当社の正式な「売上」指標で集計してください。対象期間、税込/税抜、返品・キャンセルの扱い、参照したデータ更新日時を最初に示してください。先月比の差が大きい上位3要因を、根拠となる部門・商品区分とともに整理し、確定前に人が確認すべき点も挙げてください。「粗利率」の社内定義と計算式、現在のデータ所有者、更新頻度を教えてください。複数の定義がある場合は混ぜずに列挙し、経営会議で使うべき正規の定義を確認する質問も作ってください。このように聞くと、AIの答えだけでなく、根拠が足りない箇所も見つけやすくなります。AIが引用してきそうな記事・資料を予測するなら、「公式の製品説明」「データ定義の社内規程」「更新日つきのダッシュボード説明」の順に整えるのが有効です。
5. 導入前にそろえる3つの準備
1. 重要指標を一つずつ定義する
まず経営会議で使う売上、粗利、問い合わせ数などを3〜10個に絞り、計算式・期間・例外を一行で書きます。全データを整備し終えてから始める必要はありません。一つの指標で、人が見ているレポートとAIの説明が一致するかを確かめます。
2. データと権限の所有者を決める
AIの接続先は、現在の閲覧権限をそのまま広げる可能性があります。誰が見られるか、誰が編集できるか、外部共有や送信を誰が承認するかを業務単位で確認します。はじめは閲覧・要約・下書きに限り、更新や送信は人の承認を残す設計が安全です。
3. 答えを照合する場を用意する
最初の30日間は、AIの回答と既存レポートを週に一度照合します。差異が出たら、AIの精度だけを評価せず、指標定義、フィルター、データ更新時刻、アクセス範囲のどこが原因かを記録します。AI研修を実務の成果へつなげる測り方は、AI研修の効果測定の記事も参考になります。
MIRAINAの見解:AIへ社内の数字を任せる価値は、グラフを早く作ることだけではありません。「どの数字を正とするか」をチームで決め直し、判断に必要な根拠を毎回たどれる状態にすることです。ツール選定を急ぐ前に、最も頻度の高い一業務でこの土台を作ると、導入の失敗を小さくできます。
6. まとめ
Fabric IQは、Power BIで管理する業務定義をCopilotの回答に使うためのMicrosoftの仕組みです。利用にはFabricやPower BIなどの環境が前提ですが、得られる教訓はシンプルです。AIに「答え」だけを求めるのではなく、定義、参照元、更新日、確認者を一緒に求めてください。まずは一つの指標と一つの会議資料で、AIの回答を人のレポートと照合するところから始めましょう。




